消しゴムがゴムじゃない理由とプラスチック製になった由来

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消しゴムの主成分は、天然ゴムではなく塩化ビニール樹脂です。今の学校や職場で使われている消しゴムのほとんどはプラスチック製で、ゴムノキの樹液から作る天然ゴムはむしろ少数派になっています。それなのに「消しゴム」という名前だけは昔のまま使われ続けていて、名前と中身がずれた状態になっているわけです。この記事では、なぜゴムじゃないのに消しゴムと呼ぶのか、その由来をたどりながら、プラスチック製の消しゴムが日本でどう生まれ、なぜあれほどよく消えるのかまで見ていきます。

目次

消しゴムが登場する前、鉛筆の文字はパンで消されていた

鉛筆が広まり始めた16世紀のヨーロッパには、専用の字消し道具がまだありませんでした。人々が代わりに使っていたのが、焼きたてのパンの白い部分だったそうです。パンの中身はやわらかく粘り気があり、丸めて紙をこすると鉛筆の黒鉛の粉を吸い取ってくれました。今の消しゴムほどきれいには消えなかったはずですが、専用の道具がなかった時代には貴重な手段だったのでしょう。デッサンや木炭画を描く人たちのあいだでは特によく使われていたようで、今でも木炭デッサンの現場では食パンで濃淡を調整することがあると聞きます。後述する練り消しゴムも、このパンの使い方の延長線上に生まれた道具と考えられます。

1770年にプリーストリーが天然ゴムの消字性能を発見した

現在につながる消しゴムの起源は、1770年のイギリスにさかのぼります。酸素の発見者として知られる化学者ジョゼフ・プリーストリーが、天然ゴムの塊で鉛筆の文字をこすったところ、思いのほかきれいに消えることに気づきました。この発見をきっかけに、1772年にはロンドンでゴム製の字消しが売られるようになり、その後フランスに渡ってパリでも商品化され、ヨーロッパ各地に広まっていったといいます。

プリーストリーがこすったのはブラジル産の天然ゴムだったそうで、発見の日付は1770年4月15日とされています。この日付にちなんで、4月15日は「消しゴムの日」として知られるようになりました。

英語で消しゴムを指す「rubber」は、もともと「こする(rub)もの」という意味で、天然ゴムそのものを指す単語でもあります。日本語の「消しゴム」という呼び方も、この天然ゴム由来の消しゴムが日本に伝わった際、「消す」と「ゴム」をそのまま組み合わせて定着したものです。

鉛筆と消しゴムを一体化する発想も、天然ゴム消しゴムが広まって間もない19世紀半ばのアメリカですでに生まれていたようです。1858年には、鉛筆の軸の端に消しゴムを取り付けた製品の特許がアメリカで成立し、消しゴムをいちいち別に持ち歩かなくてもよいという発想が形になりました。今も鉛筆の後ろに小さな消しゴムが付いている製品が多いのは、このアイデアの延長線上にあると言えそうです。

消しゴムは明治23年に日本へ輸入され大正期に国産化された

消しゴムが日本に入ってきたのは明治23年、西暦でいうと1890年ごろとされています。鉛筆と一緒に西洋の文房具として輸入され、当初は輸入品に頼るしかありませんでした。国産の消しゴムが登場するのは大正初期で、三田土ゴムという会社が最初に製造したと伝えられています。

当時の消しゴムは天然ゴムが原料でしたが、ゴムノキは日本国内で育たないため、東南アジアなどからの輸入に頼らざるを得ませんでした。戦時中は輸入が滞ることもあり、安定供給が課題になっていたようです。トンボ鉛筆が1939年に発売した「鉄兜字消し」は、ゴムを使わず油脂を原料にした製品でした。ゴムの入手が難しい時代に、代替素材を探る動きがすでにあったことがうかがえます。

プラスチック消しゴムは塩化ビニールの切れ端から偶然生まれた

天然ゴム消しゴムには弱点もありました。使ううちに劣化して硬くなったり、消しくずが紙にこびりついたりと、消し味や耐久性で改善の余地が大きかったのです。原料調達の不安定さも重なり、代わる素材が求められていました。

転機になったのは、塩化ビニール樹脂をめぐる偶然の出来事だったといいます。塩化ビニールを研究していた技術者が、たまたまその切れ端で鉛筆の文字をこすったところ、天然ゴムよりよく消えることに気づいたのだそうです。塩化ビニール樹脂は工業的に大量生産できる合成樹脂で、輸入原料の変動にも左右されにくく、品質の安定・消し味の向上・調達の安定化という複数の課題を一度に解決できる素材として注目を集めました。

日本メーカーは1959年に世界のどこよりも早くプラスチック消しゴムを発売した

プラスチック消しゴムの実用化については、資料によって年代の記述に幅がありますが、おおむね次のような流れで整理できます。

年代出来事
1952年ごろ(昭和27年)塩化ビニール樹脂を原料とした、より字をきれいに消せるプラスチック消しゴムが国内で登場
1956年9月(昭和31年)シードゴム工業(現・株式会社シード)が世界に先駆けて生産をスタート
1959年日本のメーカーが世界のどの国よりも早く一般向けに発売

海外製品と比べて国産消しゴムの品質がまだ見劣りしていた時代に、この技術革新によって日本の消しゴムは品質面でも世界をリードする存在になっていきました。今や世界中の学校や職場で当たり前のように使われているプラスチック消しゴムは、もとをたどれば日本発の技術だったわけです。

トンボ鉛筆のMONO消しゴムは1967年のおまけから生まれた

プラスチック消しゴムの普及を語るうえで欠かせないのが、トンボ鉛筆の「MONO消しゴム」です。誕生は1967年、当時の最高級鉛筆「MONO100」に、おまけとしてプラスチック消しゴムを付けたのが始まりでした。ところがこのおまけが「よく消える」と評判になり、消費者から単体販売を求める声が数多く寄せられたといいます。

トンボ鉛筆はこの反響を受けて商品化に踏み切り、おまけ誕生から2年後の1969年に「MONO消しゴム」として発売しました。今も親しまれている青・白・黒の横ストライプは社内デザイナーが考案したもので、シンプルながら視認性の高いこのデザインが、MONO消しゴムの認知度を押し上げる大きな要因になったそうです。ゴムを使わない油脂系の鉄兜字消しを作っていた会社が、塩化ビニール樹脂という新素材で国民的ロングセラーを生み出した流れは、消しゴムの歴史における技術転換をよく表しているエピソードです。

シードのRadarは1956年から続く青い消しゴムのロングセラー

トンボ鉛筆と並んで欠かせないのが、株式会社シード(当時のシードゴム工業)です。1956年9月に世界に先駆けて生産を開始し、1959年により消去性に優れたプラスチック字消しを商品化しました。この時期に発売した「Radar」シリーズは鮮やかな青いパッケージで知られ、「青い消しゴム」として長く親しまれてきました。発売当初から高い消字力が評価され、日本国内だけでなく海外でも使われるようになったそうです。

プラスチック消しゴムの実用化と普及は、シードとトンボ鉛筆という複数のメーカーがそれぞれ独自に技術を磨き、競い合う中で進んでいきました。一社だけの発明というより、複数の企業による技術競争と改良の積み重ねが、今の高性能な消しゴムを形づくったといえます。

プラスチック消しゴムがよく消える理由は可塑剤と黒鉛の分子間力

今の一般的なプラスチック消しゴムは、主成分の塩化ビニール樹脂(ポリ塩化ビニル)に、フタル酸系の可塑剤、炭酸カルシウムなどの細かい研磨材、劣化を防ぐ安定剤を加えて軟質に固めたものです。塩化ビニール樹脂は本来硬い素材ですが、可塑剤を加えることで消しゴムらしい弾力のある質感に仕上がります。

よく消える理由には、可塑剤の分子構造が関係しているようです。可塑剤の分子構造は、鉛筆の芯の主成分である黒鉛の分子構造と似た性質を持っており、両者のあいだに分子間力が働いて引き合います。この作用で、紙に付着した黒鉛の粒子が可塑剤成分に効率よく吸着され、消しゴムの表面や消しくずの中に取り込まれていきます。天然ゴム消しゴムは摩擦で黒鉛を物理的にこすり取る力が中心だったのに対し、プラスチック消しゴムは摩擦による研磨作用に加えて可塑剤による吸着作用も働くため、より少ない力で効率よく消せるというわけです。

使っているうちに消しくずが次々と分離して落ちるのも特徴です。黒鉛を吸着した表面部分が摩擦で適度に崩れ落ちるため、常に新しい面が紙に触れることになり、消字性能を保ちやすくなります。天然ゴム消しゴムは黒鉛が表面にこびりついて黒ずみやすいのに対し、プラスチック消しゴムは消しくずとして排出されるので紙面が汚れにくいという違いも生まれます。

「消しゴム」という名前は天然ゴム時代の名残として今も残っている

現在市場に出回っている消しゴムの大半は、天然ゴムではなく塩化ビニール樹脂を主成分とするプラスチック製品です。それでも「消しゴム」という呼び名が変わらず使われているのは、名称が生まれた当時の主原料が天然ゴムだったことの名残がそのまま定着しているからでしょう。プリーストリーの発見以来、「鉛筆の文字を消す道具はゴム製のもの」という認識が世界的に共有されてきましたし、日本でも消しゴムが天然ゴムから作られていた時代が長く続いたため、「消す」と「ゴム」を組み合わせた呼び方がそのまま日本語として定着したわけです。

塩化ビニール樹脂を使ったプラスチック消しゴムが主流になっても、名称だけは変更されずに使われ続けています。私たちが日常会話で「消しゴム」と言うとき、それは厳密には昔ゴムで作られていた文房具の名残の名称を使っているだけで、実体はプラスチック製品であることがほとんどです。文房具業界や辞書的な文脈では、ゴム製に限らずプラスチック製も含めた総称として「字消し」という呼び方が使われることもあります。字消しはゴムかプラスチックかを問わない、より実体に即した呼称ですが、日常語として定着しているのは今も消しゴムのほうです。

消しゴムには砂消し・練り消し・電動字消器という種類の違いがある

塩化ビニール樹脂主体のプラスチック消しゴムは、鉛筆書きの文字を消す最も一般的なタイプですが、用途によって別の種類も使われています。

種類主な用途特徴
プラスチック消しゴム鉛筆書きの文字塩化ビニール樹脂と可塑剤で高い消字力
砂消しゴムボールペンのインク珪砂の研磨作用で紙ごと薄く削る、紙が傷みやすい
練り消しゴムデッサン・パステル画変形させて黒鉛を吸着、消しくずが出にくい
電動字消器製図など精密作業モーターで狭い範囲をピンポイントに消せる

砂消しゴムは珪砂などの研磨剤を練り込んだ消しゴムで、紙に染み込んだインクを紙の表面ごと薄く削り取ります。修正跡を残したくない場面で重宝される一方、削る力が強いため、同じ箇所に何度も使うと紙に穴が開いてしまうこともあるので注意が必要です。練り消しゴムは粘土のように変形させながら使う消しゴムで、紙の表面を傷めずに黒鉛を吸着させて薄く消せますが、文字をくっきり完全に消し去るような消字力は一般的なプラスチック消しゴムに劣ります。電動字消器は先端の小さな消しゴムをモーターで回転・振動させる仕組みで、余計な力を入れずに狭い範囲を消せるのが利点です。

環境配慮から非塩ビ消しゴムや生分解性素材の開発が進んでいる

プラスチック消しゴムは消し味や耐久性、生産の安定性という点で大きな利点をもたらしましたが、主原料の塩化ビニール樹脂は焼却処理の際に塩素を含むガスを発生させる可能性があり、可塑剤に使われるフタル酸系の物質についても健康や環境への影響が懸念される場面があります。

文具メーカー各社は1990年代以降、地球温暖化や環境問題への関心の高まりを受けて、環境に配慮した消しゴムの開発を進めてきました。農業用ビニールハウスの廃ビニールを再利用したリサイクル消しゴムや、廃棄されたホタテの貝殻を再利用した海洋由来のリサイクル素材を使った消しゴム、消しゴム本体だけでなくケースも含めて塩化ビニール樹脂を使わない非塩ビタイプの消しゴムなどが代表例です。非塩ビ消しゴムは、焼却時に塩化水素ガスなどを発生させにくい特殊な素材を使っているのが特徴で、学校や官公庁などでの採用も進んでいます。

近年は、植物由来の油脂を原料とした生分解性バイオポリマーの研究開発も進み、微生物による発酵生産で作られ、海水を含む自然環境の中で分解されていく素材も登場しています。塩化ビニール樹脂を使わない天然ゴム系消しゴムを展開するメーカーもありますが、合成ゴムそのものは自然環境下で簡単には分解されない点には注意が必要で、天然由来だからといって即座に環境負荷が下がるとは限らないようです。

おもしろ消しゴムや香り付き消しゴムは日本発の文房具文化として広がった

プラスチック消しゴムの技術が確立し、消し味という機能面での競争が一段落すると、日本の文具メーカーは消しゴムに遊び心という価値を加えていきます。動物や恐竜、食べ物などをかたどった「おもしろ消しゴム」や、キャラクターをモチーフにした消しゴム、こすると香りが漂う消しゴムなど、実用品の枠を超えたバリエーションが数多く生まれました。

こうした消しゴムは、子どもたちが集めて交換したり見せ合ったりする「消しゴム集め」の文化を生み、国内だけでなく海外でも人気を集めるようになったといいます。恐竜や動物のモチーフは国境を問わず子どもたちに好まれる一方、食べ物の形をした消しゴムは誤って口に入れる危険性への懸念から、ヨーロッパの一部地域では販売が制限されるケースもあるようです。それでも遊び心のあるデザイン性の高い消しゴムというジャンル自体は、日本発の文房具文化として世界に広がりを見せています。キャラクター消しゴムや香り付き消しゴムは、警察署や消防署、歯科医院などが子ども向けの記念品として配布するノベルティとしても使われています。

消しゴムのカドを使い分けるとよりきれいに消せる

プラスチック消しゴムの性能を引き出すには、使い方にもコツがあります。消したい範囲の大きさに合わせて、消しゴムの角と丸みのある面を使い分けるのが基本です。細かい文字を狭い範囲だけ消したいときはカドの部分を、広い範囲を一気に消したいときは平らな面を使うと効率がよいでしょう。いきなり強い力でこすると、芯の粉が紙の繊維の奥まで押し込まれて、かえってきれいに消えなかったり、周囲に粉を広げてしまったりすることがあります。最初は軽い力でこすり、様子を見ながら少しずつ力を強めていくと、紙を傷めずに消しやすくなるようです。消しくずもこまめに消しゴムの側面で軽く叩いて一箇所にまとめておくと、紙面を払うだけで処理できます。

消しゴムのカドをめぐっては、ユニークな商品も生まれています。立方体を市松模様のようにジグザグに組み合わせ、一般的な直方体消しゴムの8個の角に対して28個もの角を持たせた製品は、グッドデザイン賞を受賞し、ニューヨーク近代美術館のデザインコレクションにも選ばれたそうです。使い込んで丸くなったカドを、お湯やドライヤーで温めて専用シートで成形し直し、繰り返し復活させられる商品も登場しています。熱で軟化するという塩化ビニール樹脂の性質をうまく生かした発想と言えるでしょう。

名前の由来を知ると消しゴムの見え方が変わる

消しゴムという名前には、天然ゴムで文字を消していた時代の記憶がそのまま刻み込まれています。18世紀にプリーストリーが天然ゴムの消字性能を発見し、それがヨーロッパから日本へ伝わって大正期に国産化されました。その後、原料の安定調達と消し味向上という課題を背景に、塩化ビニール樹脂を使ったプラスチック消しゴムが日本で生まれ、1959年には世界に先駆けて発売されるまでになりました。トンボ鉛筆のMONO消しゴムのように、偶然のおまけから国民的商品に育った製品もあります。

今主流のプラスチック消しゴムは、塩化ビニール樹脂と可塑剤、研磨材を組み合わせ、黒鉛を効率よく吸着しながら消しくずとして排出するという、天然ゴムにはない消字の仕組みを実現しています。それでいて名前だけは消しゴムのまま変わらず使われ続けているのは、言葉が実体の変化を追い越して定着してしまう例のひとつと言えそうです。塩化ビニール樹脂に頼らない非塩ビ消しゴムや、植物由来の生分解性素材を使った消しゴムの開発も今なお進んでいます。ふだん何気なく使っている消しゴム一つにも、200年以上にわたる素材開発の歴史と、名前と実体のギャップという由来が詰まっているわけです。

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