麦茶の焙煎はなぜ生まれた?由来からたどる夏の飲料の歴史

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麦茶は、焙煎した大麦を煮出して作るノンカフェインの飲料で、赤ちゃんからお年寄りまで安心して口にできることから夏の食卓に欠かせない存在になっています。大麦を炒って煎じて飲むという発想自体は平安時代にはすでに存在していたそうで、江戸時代には「麦湯」という名前で庶民に親しまれていました。冷蔵庫が家庭に普及した昭和30年代を境に、麦茶は温かい飲み物から冷たい夏の定番飲料へと姿を変えていきます。この記事では、大麦が日本に伝わった経緯から江戸の麦湯文化、焙煎方法の違い、そして現代の市場動向まで、麦茶という飲み物の由来を時代ごとにたどっていきます。

目次

大麦は1万3千年前から栽培され縄文時代末期に日本へ伝わった

麦茶の原料である大麦は、人類が農耕を始めた最古の作物のひとつです。大麦の栽培は今からおよそ1万3千年前、イランやイラクを含むチグリス・ユーフラテス川流域やインダス川流域ですでに始まっていたと考えられています。小麦とともに人類の食生活を支えてきた基幹作物で、パンやビールなど各地域の食文化に取り込まれてきました。

日本列島に大麦が伝わったのは縄文時代の末期、およそ2500年前のことだとされています。稲作と同じころに大陸から伝来し、以降は米と並ぶ重要な穀物として各地で栽培されるようになりました。当初は主食や味噌の原料として利用されていましたが、大麦を炒って煎じて飲むという利用法がやがて生まれ、これが麦茶の直接のルーツになったと考えられています。

平安時代の貴族は煎った大麦を「麦湯」として楽しんでいた

緑茶が中国から本格的に伝わるより前から、大麦を煎じた飲み物は日本に存在していました。平安時代には、大麦を煎って粉にした「はったい粉」を湯や水に溶かして飲む習慣があり、貴族階級を中心に楽しまれていたという記録が残っています。当時は「麦湯」と呼ばれ、粒のまま煮出す今の形とは異なるものの、香ばしく煎った大麦を飲用に供するという発想そのものはこの時代にすでに確立されていたことになります。

さらに平安時代には「麦こがし売り」と呼ばれる商人が街に現れ、煎った麦を粉状にして販売していたという記録も残っています。麦茶がまだ庶民に広く行き渡る前の段階では、こうした行商人を通じて麦を使った飲み物や食べ物が少しずつ生活に浸透していったようです。

戦国武将は陣中の携行飲料として麦茶を持参していた

鎌倉時代になると、麦茶は武士階級の生活にも登場するようになります。特に戦国時代には、武将たちが合戦の陣中で口にする飲み物として麦茶を持参していたという伝承が残っています。腐りにくく、体を温めながら水分も補給できる麦茶は、過酷な戦場において実用的な携行飲料として重宝されたのでしょう。当時は冷蔵の技術がないため、麦茶は温かい状態か常温で飲まれていたと考えられています。

江戸時代の「麦湯」は文化文政期に夜店の定番になった

麦茶の歴史のなかで大きな転換点になったのが江戸時代です。当時、緑茶である煎茶はまだ高級品で、庶民が気軽に口にできるものではありませんでした。そこで、安価に手に入る大麦を原料にした「麦湯」が、庶民の飲み物として広く普及していきます。

文化文政期、西暦でいうと1813年から1830年ごろにかけて、江戸の町には「麦湯」と書かれた行燈を掲げる夜店が数多く出現しました。現代でいう屋台や立ち飲み処のような存在で、暑い夏の夜に涼を求めて出歩く町人たちが縁台に腰掛け、一杯の麦湯を楽しみながら涼んだそうです。当時の価格は一杯およそ四文程度だったと推測されており、現代の貨幣価値に換算するとおよそ80円から100円程度に相当するといわれています。

興味深いのは、当時の麦湯が冷やさず熱い状態で提供されていた点です。暑い季節にあえて熱い飲み物を飲むことで体感的な暑さを紛らわせるという考え方があったとされ、これは「暑い時こそ熱いお茶を飲む」という感覚に今も通じるものがあります。麦湯は水分補給の手段であるだけでなく、夜店に集まって涼みながら人と語らう社交の場としての役割も果たしていました。

昭和30年代の冷蔵庫普及で麦茶は「冷やす飲み物」になった

江戸時代に庶民文化として定着した麦茶は、明治時代以降も生活に根付いた飲み物として引き継がれていきます。この時期になると麦を焙煎する技術や道具にも改良が加えられ、家庭で麦を炒って麦茶を作る習慣がより一般的になりました。多くの家庭で、夏になると鍋や焙烙で大麦を炒り、それを煮出して麦茶を作るのが当たり前の光景だったようです。

麦茶の飲み方に決定的な変化をもたらしたのは、昭和30年代に進んだ冷蔵庫の普及でした。それまで常温か温かい状態で飲まれることが多かった麦茶は、家庭に冷蔵庫が入り込むにつれて冷やして飲むという習慣へと急速に置き換わっていきます。大麦の収穫時期は初夏にあたり、収穫したての新麦を炒って作った麦茶は風味がよいとされ、この収穫時期と冷蔵技術の普及という二つの要因が重なって、麦茶は「夏の飲み物」というイメージで語られるようになりました。

麦茶の原料は二条大麦と六条大麦で甘みと香ばしさが変わる

麦茶の味わいや香りは、原料となる大麦の品種によって変わります。大麦には大きく分けて「六条大麦」と「二条大麦」という二つの系統があり、穂を上から見たときの実の並び方に違いがあります。二条大麦は穂に実が二列に並び、六条大麦は六列に実がつきます。

二条大麦は、明治時代の初期にビール醸造を目的として日本に導入された経緯があり、でんぷん質が豊富でタンパク質は少なめという特徴を持ちます。ビールだけでなく焼酎の原料としても利用され、麦茶に加工すると甘みを感じやすい仕上がりになるといわれています。

一方の六条大麦はたんぱく質を豊富に含み、でんぷん質はやや少なめです。押し麦や丸麦、米粒麦に加工されて麦飯や麦味噌の原料として広く使われてきました。麦茶の原料としてはこの六条大麦が使われるケースが多く、焙煎したときに適度な香ばしさと軽い苦みが引き出されることから、伝統的な麦茶らしい風味を生む品種として好まれています。

好まれる大麦の種類は地域によっても違いが見られます。西日本では二条大麦、関東では六条大麦、関西の一部地域では皮を取り除いた「裸麦」が好んで使われてきたとされ、それぞれの土地の気候や農業の歴史、食文化の違いを映し出しています。品種ごとの特徴を整理すると、次のようになります。

品種実の並び主な用途麦茶にした際の傾向
二条大麦二列ビール、焼酎甘みを感じやすい
六条大麦六列麦飯、麦味噌、麦茶香ばしさと軽い苦み

熱風焙煎は500度から200度へ温度を下げて均一に炒る

麦茶の風味を決めるのは焙煎の工程です。大麦をどう炒り上げるかで香ばしさや色合い、甘みと苦みのバランスは大きく変わります。現在の製造現場では、いくつかの焙煎方式が使われています。

大手飲料メーカーをはじめとする工業的な製造ラインでは、熱風焙煎方式が主流です。高温の熱風を大麦に吹き付けて短時間で均一に焙煎し、大量生産を可能にしています。焙煎機に送り込む熱風の温度は四段階に分けて調整され、最初はおよそ500度近い高温から始まり、段階的に200度程度まで下げていくという緻密な工程が組まれています。この温度管理によって大麦の芯まで均一に火を通しつつ焦げすぎを防ぎ、安定した品質の麦茶を大量に作り出せます。

昔ながらの製法を守り続ける生産者もいます。その代表例が「砂釜焙煎」で、熱した砂の中に大麦を通す、昭和初期から続く伝統的な焙煎方法です。砂が発する遠赤外線効果で大麦の内部までじっくりと熱が伝わり、焙煎が進むと麦の粒が大きく膨らむ「爆ぜる」現象が起こります。この爆ぜる過程を経ることで麦本来の甘みと香りが引き出されるとされ、手間と時間のかかる製法ながら、風味の奥深さを求める生産者や消費者から根強い支持を集めています。

家庭での自家焙煎は15分ほど炒って麦の色づきを見る

家庭で麦茶を手作りする方法もいくつかあります。もっとも古典的なのは、フライパンや小鍋を使い、木べらなどで絶えずかき混ぜながら大麦を炒る方法です。15分程度炒って麦がこげ茶色に色づいた状態が焙煎完了の目安とされています。加熱時間をもう少し長めにとる場合には、麦の粒の二割程度が腹の部分から割れて、中の白い部分がポップコーンのようにのぞく状態まで炒ることもあります。近年は電子レンジやオーブントースターで手軽に自家焙煎を楽しむ人も増え、キャンプなどのアウトドアで焙煎前の大麦を持参し、その場で炒りたての麦茶を楽しむという遊び方も広がっています。

麦茶はカフェインを含まずミネラルと食物繊維を含む

麦茶が夏の飲料として長く支持されてきた理由のひとつに、その成分の特徴があります。麦茶には、汗をかいたときに体外へ失われやすいナトリウムやカリウムといったミネラル分のほか、骨や歯の構成成分になるカルシウムやリン、皮膚や粘膜の健康維持に関わる亜鉛なども含まれています。さらに原料の大麦由来の食物繊維や、複数のポリフェノールも含んでいます。

麦茶の大きな特徴は、カフェインを含まない点です。緑茶や紅茶、コーヒーとは異なりノンカフェイン飲料の代表格とされ、カフェインの摂取を控えたい妊婦や乳幼児、高齢者でも口にしやすい飲み物です。利尿作用が少ないとされることから、汗をかきやすい夏場の水分補給に向いた飲み物として位置づけられています。

香ばしい香りの成分である「アルキルピラジン」には血流を促す働きがあるという報告があります。大麦由来の食物繊維は腸の働きを助け、便通を整える働きが期待できるとされます。大麦に含まれるβ-グルカンという成分には血中コレステロール値を下げる作用が報告されており、動脈硬化のリスクを抑える働きが期待されています。焙煎された大麦には、虫歯の原因になるミュータンス菌の働きや口内細菌の付着を抑える働きがあるとする研究もあり、ポリフェノールによる抗酸化の働きとあわせて、麦茶は日々の水分補給を超えた役割も担っているといえそうです。

麦茶市場は10年で2.7倍、1400億円規模に拡大した

かつて麦茶は、各家庭で大麦を煮出して作る手作りの飲み物というイメージが強い存在でした。近年はペットボトル入りの麦茶飲料が広く普及し、コンビニやスーパーの飲料棚に定番商品として並ぶようになっています。かつて麦茶は主に7月から9月の夏場に集中して販売される季節商品でしたが、現在は一年を通じて店頭に並ぶ通年商品へと位置づけが変わりました。

市場規模の面でも麦茶は大きく成長しています。ここ10年ほどで麦茶市場は約2.7倍に拡大し、市場規模はおよそ1400億円に達したとされます。生産量も近年は前年比で伸びが続いており、この10年間で生産量が3.6倍に増えたというデータもあります。大手飲料メーカーのロングセラー商品は累計販売本数が130億本を突破し、ギネス世界記録として「最も売れているペットボトル入り麦茶ブランド」に認定されるなど、麦茶は清涼飲料市場において確かな地位を築いています。

家庭で使うティーバッグタイプの麦茶についても、数年ぶりに販売数量がプラスに転じたという報告があり、手作りで麦茶を楽しむ文化が根強く残っていることがうかがえます。ペットボトルの手軽さと、ティーバッグで自分好みに煮出す楽しみ、そして粒のまま焙煎して煮出す本格的な作り方まで、いまの消費者は自分の生活スタイルに合わせてさまざまな形で麦茶を楽しんでいます。

韓国のポリチャや古代ギリシアのプティサーネーにも麦の煎じ飲料があった

麦を煎じて飲むという発想は、日本だけのものではありません。隣国の韓国では、麦茶にあたる飲み物を「보리차(ポリチャ)」と呼びます。「보리(ポリ)」が大麦、「차(チャ)」がお茶を意味しており、言葉の作りとしては日本語の「麦茶」とほぼ同じ発想でできています。ただし韓国のポリチャは煎り麦だけでなく、煎ったとうもろこしや煎り玄米、煎りチコリ麦を混ぜた穀物混合茶として提供されることも多く、味わいは日本の麦茶よりあっさりしている場合が多いとされます。韓国では食事の最中に水代わりとして飲む習慣が根付いており、料理の味を邪魔しないよう雑味の少ない仕上がりが好まれてきたためだと考えられています。麦茶に炭酸を加える飲み方や、とうもろこし茶(옥수수차)が麦茶と並んで人気を集めているなど、穀物茶の文化が独自に発展している点も興味深いところです。

さらに視野を広げると、麦を使った煎じ飲料は東アジアだけにとどまりません。古代ギリシアにも、大麦を煎じた「プティサーネー」と呼ばれる飲み物があったとされ、体をいたわる飲み物として古くから親しまれていたようです。身近な穀物である大麦を炒り、煮出して飲むという発想が洋の東西を問わず独立して生まれてきたという事実は、麦茶という飲み物が持つ普遍的な魅力を物語っています。

麦茶の淹れ方は煮出し・お湯出し・水出しの3通りで風味が変わる

家庭で麦茶を作る方法は、大きく「煮出し」「お湯出し」「水出し」の三種類に分かれます。もっとも伝統的なのが煮出しで、やかんなどで水を沸騰させ、火にかけたまま麦茶のパックや炒った大麦を入れて数分間煮出す方法です。手間はかかるものの、麦茶らしい濃厚なコクと香ばしい香りをしっかり引き出せます。

お湯出しは、いったん沸騰させたお湯の火を止めてから麦茶パックを入れ、10分から30分ほど置いて抽出する方法です。煮出しに比べて雑味が出にくく、すっきりした味わいに仕上がりやすいといえます。もっとも手軽なのが水出しで、清潔な容器に水と麦茶パックを入れ、冷蔵庫で2時間ほど置くだけで完成します。忙しい家庭や、火を使わずに手軽に麦茶を用意したい場合に重宝する方法です。

どの淹れ方でも共通して気をつけたいのが、麦茶パックを入れっぱなしにしないという点です。抽出時間が長くなりすぎると、香ばしさに加えて余計な苦味や雑味が出てしまう原因になります。好みの濃さになったタイミングでパックを取り出すことが、雑味のないすっきりした麦茶を楽しむコツとされています。水出し麦茶の風味に物足りなさを感じるときは、インスタントコーヒーをほんの少量加えるとコクを底上げできるという工夫も知られています。

麦茶はカテキンが少なく傷みやすいため当日中に飲み切るのが望ましい

麦茶は非常に傷みやすい飲み物だという点も、意外と知られていない事実です。原料である焙煎した大麦にはでんぷん質が含まれ、抽出の過程でこのでんぷん質が液体中に溶け出すため、雑菌が繁殖しやすい環境ができてしまいます。緑茶やウーロン茶ならカテキンによる一定の抗菌作用が期待できますが、麦茶にはカテキンがほとんど含まれていないため、他のお茶より傷みやすい飲み物とされています。

そのため、家庭で作った麦茶は常温で長時間放置せず、必ず冷蔵庫で保管することが勧められています。目安として、作った麦茶はできるだけ当日中に飲み切るのが望ましく、常温で一日以上経過したものを口にするのは避けたほうがよいとされます。容器の衛生管理も重要で、内側に傷がついているとその部分に汚れや雑菌が付着しやすくなるため、耐久性が高くお手入れしやすいガラス製の容器を選ぶとよいでしょう。麦茶を作る前には容器をしっかり洗浄し、熱湯消毒をしておくと雑菌の繁殖リスクをさらに抑えられます。容器に直接口をつけて飲むと口の中の雑菌が持ち込まれてしまうため、コップに注いでから飲む習慣も欠かせません。残った麦茶に新しく作った麦茶を継ぎ足すのも衛生面では避けたいところで、残っている麦茶を飲み切ってから容器を洗浄し、あらためて新しい麦茶を作るという手順が、安全でおいしい麦茶を保つ基本になります。

呼び名は昭和38年発売の「江戸麦茶パック」を境に麦湯から麦茶へ変わった

江戸時代には「麦湯」という名前で親しまれていたこの飲み物が、なぜ今のように「麦茶」と呼ばれるようになったのか、その経緯にも興味深い背景があります。太平洋戦争前の時代には、東日本では六条大麦を使った「麦湯」、西日本では裸麦を使った「麦茶」というように、地域によって呼び方そのものが違っていたとされます。

呼び名が全国的に「麦茶」へ統一されていく大きなきっかけになったのが、昭和38年に発売された「江戸麦茶パック」という商品です。あらかじめ炒った麦をパック状に加工し、誰でも手軽に麦湯を作れるようにした商品で、この商品名に「麦茶」という言葉が使われたことがきっかけとなり、それまで「麦湯」と呼んでいたものが徐々に「麦茶」という呼称に置き換わっていったと考えられています。これに加えて、明治時代以降に西洋のカフェ文化が流入し、コーヒーや紅茶を出す喫茶店が各地に登場したことも一因とされます。コーヒーや紅茶と同じ「お茶」の一種として捉えられるようになったことで、自然と「麦茶」という呼び方が定着していったのではないかという見方もあります。昭和30年代に冷蔵庫が家庭に普及し、冷やして飲むスタイルが確立されるのとほぼ同じ時期に、呼び名も「麦湯」から「麦茶」へ変わっていったのです。昭和40年代になるころには全国的に「麦茶」という名称が定着し、今なじみのある呼び方が完成しました。

出がらしの麦茶パックは麦茶ご飯や消臭剤に再利用できる

麦茶を煮出したり水出ししたりしたあとに残る麦茶パックの出がらしにも、捨ててしまうにはもったいない使い道がいくつもあります。中身はあくまで焙煎された大麦なので、緑茶や紅茶の茶葉と同じように食材として再利用できます。

代表的な使い道のひとつが、出がらしをお米と一緒に炊飯器に入れて炊く「麦茶ご飯」です。炊き上がったご飯からはほんのりと麦茶の香ばしい香りが立ち、いつもの白米とは一味違う風味を楽しめます。出がらしを牛乳や豆乳と合わせて温めれば「麦茶ラテ」として香りと味を二度楽しめますし、ホットケーキミックスの生地に混ぜ込んで焼けば香ばしい「麦茶クッキー」に仕上がるなど、お菓子作りへの応用も可能です。

食材としての利用にとどまらず、掃除や消臭といった生活面での使い道も知られています。使用済みの麦茶パックを乾燥させれば、下駄箱や冷蔵庫の中に置く簡易的な消臭剤として使えます。ステンレス製のシンクを金属たわしでこすると細かい傷がつく恐れがありますが、麦茶パックの柔らかい素材なら傷をつけずに油汚れなどを落とせるため、キッチン周りのちょっとした掃除道具としても重宝します。

熱中症対策には麦茶だけでなく塩分を組み合わせるのが望ましい

夏の水分補給といえば麦茶というイメージを持つ人は多いものの、麦茶だけで熱中症対策のすべてをまかなえるわけではない点には注意が必要です。麦茶にはナトリウムなどの塩分がほとんど含まれていないため、大量に汗をかいた場面で麦茶だけを飲み続けても、汗とともに失われた塩分を十分に補うのは難しいとされています。運動や屋外作業などで大量の発汗が続く状況では、麦茶単独ではなく梅干しなど塩分を含む食品を合わせて摂取したり、水と塩、砂糖を組み合わせた「塩麦茶」のようなアレンジを取り入れたりすることが勧められています。目安としては、200ミリリットルの麦茶に対して塩0.2グラム、砂糖5グラムほどを加えるとよいとされ、家庭で手軽に実践できる工夫として紹介されています。

一方で、日常的な水分補給という観点では麦茶はやはり有力な選択肢です。ノンカフェインで利尿作用による水分の排出を心配する必要がなく、香ばしい風味で自然とたくさん飲みやすい特徴もあります。中学校の部活動などでは持参が許可される飲み物が「お茶」に限られ、スポーツドリンクの持ち込みが認められていない場合もあり、そうした環境では麦茶が数少ない選択肢のひとつに選ばれることも多いようです。激しい運動時には塩分補給を意識しつつ、日常のこまめな水分補給には麦茶を活用するというように、状況に応じて使い分けることが夏を健やかに過ごす現実的な工夫だといえるでしょう。

麦こがしとはったい粉は麦茶と同じ焙煎技術から生まれた食文化

麦茶の香ばしさのルーツをたどると、「麦こがし」あるいは「はったい粉」と呼ばれる伝統的な食品にたどり着きます。大麦や裸麦を焙煎したあとに粉状に挽いたもので、関東地方を中心に「麦こがし」という呼び名で親しまれてきました。焙煎という工程そのものは麦茶と共通しており、香ばしい風味を引き出す発想も麦茶の製法と深くつながっています。

はったい粉は、砂糖などを混ぜてそのまま食べたり、お湯やお茶、牛乳で溶いてお粥のような状態にして食べる方法が一般的とされ、夏場には冷たい麦茶をかけて食べる楽しみ方も伝えられています。麦茶とはったい粉は、同じ大麦という原料、同じ焙煎という工程を共有しながら、一方は飲むもの、もう一方は食べるものとして、それぞれ独自の食文化を形作ってきたといえます。

大麦を原料にした発酵食品である麦味噌も、麦茶と同じく香ばしさを特徴とする調味料として各地で親しまれています。麦味噌の味噌汁は、いりこや椎茸といった素朴な出汁とよく合い、米味噌にはない香ばしい風味を楽しめるとされます。麦茶を軸に周辺の食文化を眺めてみると、大麦という一つの穀物が焙煎という技術を介して、飲み物にも食べ物にも調味料にも姿を変えながら、長く食生活を支えてきたことが見えてきます。

千年を超える歴史を経て麦茶は通年愛される国民的飲料になった

麦茶は、縄文時代末期に大麦が日本に伝わって以来、平安時代の貴族の飲み物、鎌倉から戦国時代にかけての武士の携行飲料、そして江戸時代には庶民の夏の風物詩として親しまれる「麦湯」へと姿を変えながら、長い年月をかけて生活に溶け込んできた飲み物です。冷蔵庫の普及という技術の変化を経て「冷やして飲む」という今のスタイルが確立され、焙煎技術の進歩によって熱風焙煎や砂釜焙煎といった多様な製法が生まれました。原料の大麦の品種や産地による味わいの違い、そしてノンカフェインでミネラルやポリフェノールを含む成分面の魅力も相まって、麦茶は季節限定の飲み物という枠を超え、一年を通じて親しまれる飲料へと育っています。ひと口の麦茶の背景に、千年を超える歴史と時代とともに磨かれてきた焙煎の技があることを知ると、いつもの一杯もまた違って感じられるかもしれません。

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