夏になると蚊に何度も刺される人と、隣にいるのにまったく刺されない人がいます。この差の理由としてよく語られるのが、O型の人は蚊に刺されやすいという説です。結論を先に言うと、O型かどうかよりも汗に含まれる乳酸やカルボン酸、体温、呼気の二酸化炭素量のほうが刺されやすさに強く関わっていると考えられています。2004年の海外の研究では、O型が刺される頻度は83.3%、A型は46.5%という数字が報告され、この説が広く知られるきっかけになりました。ただし、その後の複数の研究では血液型による差がほとんど見られなかったという報告もあり、科学的な結論はまだ出ていません。ここでは血液型説の根拠と限界を整理したうえで、汗の成分がどのように蚊を引き寄せているのかを詳しく見ていきます。

O型が蚊に刺される確率は83.3%、A型の2倍近くという2004年の研究
O型が蚊に刺されやすいとされる根拠のひとつは、2004年にJournal of Medical Entomology(医学昆虫学専門誌)に掲載された研究です。血液型ごとに蚊がどのくらいの頻度で人を刺すかを調べたところ、O型の人が刺される頻度は83.3%、A型の人は46.5%という結果になりました。単純に比較すると、O型はA型に比べて2倍近く刺されやすいことになります。この数字のインパクトが強かったため、O型は蚊に好かれるという説がインターネットや雑学番組などで繰り返し取り上げられるようになりました。
日本のヒトスジシマカ実験でもO型がもっとも刺されやすい結果に
海外の研究だけでなく、日本国内でもヒトスジシマカ(デング熱などを媒介することでも知られる蚊)を使った実験が行われています。白井氏による試験結果では、O型、B型、AB型、A型の順に刺されやすいという傾向(O>B>AB>A)が確認されました。海外の研究とおおむね似た並びになっている点は興味深く、O型説を補強する材料として紹介されることが多くなっています。
O型が狙われる仮説は花の蜜に似た糖鎖構造
なぜO型が狙われやすいのか、明確な結論はまだ出ていませんが、いくつかの仮説が提唱されています。よく紹介されるのが、O型の血液型物質は他の血液型に比べて花の蜜に近い成分を含んでいる可能性があるという仮説です。蚊は本来、花の蜜などの糖分を主なエネルギー源としており、産卵のために吸血するのはメスの蚊だけです。O型特有の糖鎖構造がわずかに蚊の嗜好性へ影響しているのではないかと推測されていますが、これはあくまで仮説の域を出ておらず、メカニズムとして確定しているわけではありません。
Thorntonの実験では血液型による差はまったく確認されなかった
血液型と蚊の刺されやすさの関係は、複数の研究者が検証してきましたが、結果は一様ではありません。1976年にWoodが行ったネッタイシマカを使った実験では、O型の分泌型はO型の非分泌型よりも刺されやすく、A型の非分泌型はA型の分泌型よりも刺されやすいという結果が出ました。ここに出てくる分泌型・非分泌型という区分は、後述するSe式血液型に関係する分類です。
一方、同じ1976年にThorntonらがガンビアハマダラカを使って行った実験では、まったく違う結果が出ています。腕にとまる蚊の数を数える方法で調べたところ、血液型による差は見られず、分泌型・非分泌型による関連性も確認できなかったと報告されているのです。このように研究結果が一致しない部分が多いため、血液型と蚊の刺されやすさについて科学的なコンセンサス(総意)はいまだ得られていません。皮膚科医や感染症の専門家のコラムでも、血液型と蚊の関係はまだ研究段階であり断定はできないという慎重な立場が目立ちます。
分泌型と非分泌型で結果が割れるSe式血液型の仕組み
血液型と蚊の関係を語るうえで欠かせないのがSe式血液型という分類です。これは、ABO式血液型を決める血液型物質が唾液や精液、胃液などの体液中にどの程度分泌されているかによって人を分ける仕組みです。血液型物質が体液中に多く分泌されているタイプを分泌型(Se)、ほとんどまたはまったく分泌されていないタイプを非分泌型(se)と呼びます。分泌型の人は唾液を調べるだけでABO式血液型がわかりますが、非分泌型の人は分泌液からは血液型がほとんどわかりません。日本人の場合、約70〜80%が分泌型で、残りの20〜30%程度が非分泌型とされています。
この分泌型・非分泌型の違いが、皮膚から出る血液型関連の化学物質の量に影響し、それが蚊の嗜好性に関わっている可能性があるといわれています。つまり、O型かA型かという単純な区分だけでなく、分泌型か非分泌型かという要素が組み合わさることで、刺されやすさが左右されているのかもしれません。ただ、この点についても研究結果が一致しておらず、明確な結論には至っていないのが現状です。
汗の乳酸とカルボン酸が蚊を引き寄せる主な誘引物質
血液型説よりも科学的な裏付けが強いとされているのが、汗や体臭に含まれる化学成分が蚊を引き寄せているという考え方です。蚊は非常に発達した嗅覚受容体を触覚に持っており、人間の体から出るさまざまな揮発性物質を高い精度で感知できます。
汗の中には乳酸をはじめとするカルボン酸類、アンモニア、インドールといったニオイ成分が含まれており、これらは蚊にとって強い誘引物質です。汗をかきやすい人ほど蚊に狙われやすくなる傾向があり、特に乳酸は蚊が獲物を探る際の重要な手がかりのひとつとされています。運動後や体温が高いときなど、乳酸の分泌が増えるタイミングで蚊が寄ってきやすくなると考えられています。
皮膚の常在菌が汗を分解するほど蚊に狙われやすくなる
近年の研究では、汗そのものだけでなく、皮膚表面の常在菌の働きにも注目が集まっています。皮膚上の常在菌が汗や皮脂を分解する過程で、蚊を強く引き寄せるニオイ成分がさらに強まることが示唆されているのです。汗をかいた直後よりも、時間が経って常在菌による分解が進んだ状態のほうが、蚊にとって魅力的なニオイになっている可能性があります。汗をかいたらすぐに拭き取るという対策が勧められる理由のひとつは、ここにあります。
蚊に刺されやすい人の体臭を分析した研究では、共通して検出された成分にカルボン酸が挙げられており、なかでも炭素数10〜20程度の脂肪酸の形をとるカルボン酸が特に関係していることがわかってきました。この分野の研究は近年進んでおり、将来的には体臭の成分分析から蚊に刺されやすい体質かどうかを客観的に判定できるようになるかもしれません。
蚊は二酸化炭素を60メートル先から感知して獲物に近づく
汗の成分だけでなく、蚊が獲物を見つける最初の段階では二酸化炭素が重要な役割を果たします。蚊は非常に敏感な二酸化炭素センサーを持っており、人が呼吸で吐き出す二酸化炭素を60メートルも離れた場所から感知できるといわれています。蚊はこの二酸化炭素の濃度勾配をたどって獲物に近づき、数メートルの距離まで来た段階で、今度は足やわきの下、皮膚から出るニオイ成分を頼りに着地点を定めていきます。
体温が高い人、つまり基礎代謝が高い人は呼吸量や二酸化炭素の排出量が多くなりやすいため、結果として蚊に見つかりやすくなります。運動をしたあとに体温が上がり、呼吸が荒くなっている状態は、蚊にとって発見しやすい状態だといえるでしょう。
妊娠中に刺されやすくなるのは呼吸量が2割増えるため
妊娠中の女性が蚊に刺されやすいといわれるのも、この二酸化炭素のメカニズムに関連しています。妊娠中は代謝が上がって体温がやや高くなるほか、呼吸量も通常時より2割ほど増加するとされており、それに伴って呼気中の二酸化炭素排出量も増えます。その結果、蚊に狙われやすくなると考えられているのです。
ビールを飲むと蚊に刺される確率が最大60%増加する
ビールを飲むと蚊に刺されやすくなるという話は俗説ではなく、行動実験によって裏付けられています。研究によれば、アルコール摂取後は蚊に刺される確率が最大で60%増加すると報告されています。
このメカニズムとしてまず考えられているのは、体内でアルコールが分解される過程で二酸化炭素が発生し、それが呼気に混ざって排出されることで蚊のセンサーに感知されやすくなるという点です。さらに、アルコールを摂取すると一時的に皮膚の血管が拡張し、発汗や皮膚温の上昇が起こることで、皮脂や汗の成分がより多く放散されやすくなる可能性も指摘されています。前述の通り蚊はカルボン酸を含む体臭成分に強く引き寄せられるため、飲酒によって皮膚からのニオイ成分の放出が活発になることが、刺されやすさの上昇につながっていると考えられます。
血液型よりも汗の量と体温が刺されやすさを左右する
蚊が人を刺す標的を選ぶプロセスには、血液型よりも二酸化炭素の排出量や汗・体臭の成分、体温といった要素が強く関わっていると考えられています。血液型以外で蚊に刺されやすいとされる人の特徴を見ていくと、まず汗をたくさんかく人が挙げられます。汗に含まれる乳酸やアンモニアなどの成分が蚊を引き寄せるため、汗っかきの人は必然的に狙われやすくなります。運動や暑さで体温が上がり、代謝が活発になっている人も同じ理由で刺されやすくなります。
赤ちゃんや小さな子どもも刺されやすいとされる代表例です。体温が高く新陳代謝が活発なうえ、大人に比べて皮膚が薄く、皮膚温がこもりやすいことが理由として挙げられています。前述の妊娠中の女性も、代謝の上昇と呼吸量の増加によって刺されやすい傾向があります。飲酒をしている人も、アルコール代謝に伴う二酸化炭素の増加と発汗の促進によって刺されやすくなります。
黒い服より白黒ボーダーのほうが狙われやすいという指摘
黒っぽい服を着ている人も蚊に狙われやすいといわれています。蚊は人間のように色そのものを認識しているわけではありませんが、明暗のコントラストを識別する視覚を持っており、黒や赤などの暗く濃い色に寄ってくる傾向があります。単純な黒色の服よりも、白と黒のボーダー柄のように明暗のコントラストがはっきりした服のほうが、かえって蚊に刺されやすくなるという指摘もあり、この点は少し意外に感じるかもしれません。ただし視覚的な要因はあくまで二酸化炭素や体臭といったニオイの誘引に対する補助的な位置づけで、単独で刺されやすさを決めるものではないとされています。それでも、屋外活動の際に白や明るい色の服を選ぶことは、蚊対策のひとつとして広く勧められています。
このほか、足のニオイが強い人(足の常在菌が多い人)や、香水・整髪料を多用している人も、成分によっては蚊を引き寄せやすくなる場合があります。特に近年の研究で注目されているのが、足の裏に棲む常在菌の種類の多さです。足の裏は人体の中でも常在菌が繁殖しやすい部位で、そこで発生するカルボン酸などの誘引物質の量や種類は、常在菌のバランスによって個人差が生じます。足の常在菌の種類が多い人ほど蚊に刺されやすいという研究結果も報告されており、子どもが刺されやすい背景に足のニオイが関係している可能性を指摘する専門家もいます。同じ室内、同じ時間帯にいても、足の常在菌のバランス次第で狙われる頻度が大きく変わることがあるというのは、なかなか興味深いポイントです。
ヒトスジシマカとアカイエカでは活動時間帯が真逆
蚊対策を考えるうえでは、蚊の種類による活動時間帯の違いを知っておくことも欠かせません。日本国内でよく見られる蚊は、大きく「ヒトスジシマカ」と「アカイエカ」の2種類に分けられます。
ヒトスジシマカは一般にヤブカとも呼ばれ、公園や住宅地の庭木の周りなど身近な場所に生息しています。主に日中に活動する習性があり、気温が高くなる8月から9月ごろに活動のピークを迎えます。デング熱やジカ熱、チクングニア熱などの感染症を媒介することでも知られているため、屋外での日中の活動には注意が必要です。
アカイエカは水田や湿地など湿気の多い場所に生息するイエ蚊の代表格で、活動のピークは6月から7月ごろです。ヒトスジシマカとは対照的に夜間に活発になる習性があり、夜に家の中へ侵入してくる蚊のほとんどはこのアカイエカをはじめとするイエカ類だといわれています。なお、イエカ類はデング熱やチクングニア熱、ジカ熱などは媒介しないとされています。
| 項目 | ヒトスジシマカ | アカイエカ |
|---|---|---|
| 通称 | ヤブカ | イエ蚊 |
| 主な生息場所 | 公園、庭木の周り | 水田、湿地 |
| 活動時間帯 | 日中 | 夜間 |
| 活動のピーク | 8月〜9月 | 6月〜7月 |
| 媒介する感染症 | デング熱、ジカ熱、チクングニア熱など | 媒介しないとされる |
蚊の種類によって活動時間帯や生息場所、媒介する感染症の種類が異なるため、日中の屋外で刺されやすいのか、夜間の室内で刺されやすいのかによって有効な対策も変わってきます。日中に屋外で過ごす機会が多い人はヒトスジシマカ対策として肌の露出を抑えることや虫よけ剤の使用を、夜間に自宅で刺されやすいと感じる人はアカイエカ対策として網戸や蚊帳、室内用の殺虫剤の活用を検討するとよいでしょう。
蚊対策は服装、虫よけ剤、汗対策、発生源対策の順で考える
蚊に刺されやすい体質だと感じる人が実践できる対策として、服装、虫よけ、汗対策、発生源対策という優先順位がよく紹介されています。
まず服装については、肌の露出をできるだけ抑えることが基本です。明るい色の長袖・長ズボンを着用し、足首まで覆う靴下を履くことで、蚊が皮膚に到達しにくくなります。足元は汗をかきやすく蚊に狙われやすい部位のひとつなので、優先的に対策したいところです。次に、露出している肌の部分には製品の表示に従って虫よけ剤(忌避剤)を使用します。虫よけ剤は有効成分の種類や持続時間に違いがあるため、使用シーンに応じて選ぶとよいでしょう。
汗対策としては、汗をかいたらそのままにせず、こまめにタオルなどで拭き取ることが挙げられます。前述の通り、皮膚の常在菌が汗を分解することで蚊を引き寄せるニオイ成分が強まる可能性があるため、汗をかいた状態を長時間放置しないことが役立ちます。制汗スプレーや冷却スプレーを活用して、そもそも汗をかきにくい状態を保つのも一つの方法です。最後に、蚊の発生源そのものを減らす対策も忘れてはいけません。蚊は水たまりなどの停滞水で繁殖するため、家の周りのバケツや植木鉢の受け皿にたまった水はこまめに捨てることが、蚊の発生を抑えることにつながります。
刺された後のかゆみは即時型反応と遅延型反応に分かれる
蚊に刺されやすいかどうかだけでなく、刺されたあとのかゆみや腫れの出方にも大きな個人差があります。蚊に刺されると蚊の唾液腺物質が皮膚の中に注入され、人間の体はこれを異物として認識してアレルギー反応を起こします。唾液に含まれる成分が抗原(アレルゲン)となって体内の抗体と反応し、ヒスタミンなどのかゆみの原因物質が分泌されることで、かゆみや炎症が引き起こされるのです。
このアレルギー反応には、刺された直後から症状が現れて数時間程度で治まる即時型反応と、刺されてから時間が経った翌日以降に症状が現れ、数日から1週間程度症状が続く遅延型反応の2つのタイプがあります。子どもの場合は遅延型反応が中心になりやすく、大人になるにつれて即時型反応が中心になっていくなど、年齢や過去に蚊に刺された経験の蓄積によっても反応の出方は変わるとされています。同じように刺されても腫れが大きく出たり、逆にほとんど症状が出なかったりするのは、こうした体質や被爆歴の違いによるものと考えられています。
O型より汗をかきやすい体質のほうが刺されやすさに直結する
「O型は蚊に刺されやすい」という説は、2004年の研究をはじめ複数の実験結果に支持される一方で、Thorntonらの実験のように血液型による差が確認できなかったという報告も存在し、科学的なコンセンサスはいまだ得られていません。分泌型・非分泌型(Se式血液型)という要素が関係している可能性も指摘されていますが、こちらも研究によって結果が分かれています。
一方で、蚊が獲物を見つけるプロセスにおいては、血液型よりも呼気に含まれる二酸化炭素、体温、そして汗や皮脂に含まれる乳酸・カルボン酸・アンモニアといったニオイ成分の役割の大きさが、複数の研究で裏付けられつつあります。皮膚の常在菌が汗を分解することでニオイ成分が強まるという知見も踏まえると、O型だから刺されやすいという単純な図式よりも、汗をかきやすい体質かどうか、体温や代謝の状態、二酸化炭素の排出量といった複合的な要因のほうが、実際の刺されやすさへの影響は大きいと考えられます。
もちろん、O型そのものが全く無関係とまでは言い切れず、血液型が蚊を引き寄せる要因のひとつである可能性は残されています。しかし、蚊に刺されやすいかどうかを決めるのは血液型だけではなく、汗の量や成分、体温、二酸化炭素の排出量、アルコール摂取、服装の色など、さまざまな要因が絡み合った結果だと理解しておくことが大切です。夏場に蚊に刺されやすいと感じている人は、血液型を気にするよりも、汗をこまめに拭き取り、虫よけ剤を適切に使い、肌の露出を抑えるといった具体的な対策を実践するほうが、予防への近道になるでしょう。








