ちょっと想像してみてください。目の前に缶詰がある。中にはおいしい食べ物が入っている。でも、缶切りがない。さて、どうしますか?
「そんなの困るに決まってるじゃん」と思いますよね。ところが実は、缶詰が発明されてから缶切りが登場するまで、約50年もの空白期間があったんです。1810年に缶詰が生まれてから1858年に缶切りが発明されるまでのこの期間、人々はなんとノミとハンマーで缶をこじ開けていました。中にはナイフや銃剣で格闘したり、最終手段として銃でぶち抜いたりした人もいたというから驚きです。缶詰業界ではこの時代を「暗黒の50年間」と呼んでいるそうで、もはやネーミングからして壮絶です。
そもそも缶詰が生まれたきっかけがまた面白い。ナポレオン・ボナパルトが「兵士に美味い飯を食わせたい」と懸賞金をかけたことが始まりだったんです。戦争が保存食を生み、保存食が缶切りを生み、缶切りが産業革命の労働者の食卓を変え、そしてプルトップの発明が缶切りを過去のものにしつつある——。たった一つの「缶」を巡る歴史が、こんなにもドラマチックだったとは。しかも114年前の缶詰を開けて食べたら「味は悪くなかった」というイギリス人の記録まである。さすがとしか言いようがありません。
この記事を読み終えるころ、防災用に買い置きしてある缶詰を見る目がきっと変わっているはずです。あの小さな金属の容器には、ナポレオンの野望から現代の缶詰バーまで、200年分の人類の知恵が詰まっていますから。

缶切りは1858年にアメリカのエズラ・J・ワーナーが特許を取得したことで世界初の発明とされていますが、実は缶詰が1810年に発明されてから約50年もの間、缶切りは存在しませんでした。この「暗黒の50年間」と呼ばれる時代、人々はノミとハンマー、ナイフ、時には銃剣や銃を使って缶詰を開けていたのです。缶詰と缶切りの歴史は、ナポレオン・ボナパルトの軍事的な要求から始まり、約200年の時を経て私たちの生活に欠かせない存在となりました。本記事では、缶詰と缶切りの発明の歴史から日本への伝来、そして現代の缶詰文化と防災における役割まで、詳しく解説していきます。
缶詰の発明とナポレオンの関係
缶詰の誕生は、1789年に始まったフランス革命とナポレオン・ボナパルトに深く関わっています。ナポレオンは遠征時に、栄養豊富で新鮮かつ美味な兵食を大量に確保することが、兵士たちの士気の維持と高揚に不可欠だと考えていました。しかし当時の食物貯蔵は塩蔵、燻製、酢漬けが中心であり、味が悪いだけでなく腐敗も多いという問題を抱えていました。
そこでナポレオンは、保存性に優れた保存食のアイディアを募り、懸賞金をつけて食料補給問題の解消を図りました。この懸賞金は1万2000フランという大金でした。
ニコラ・アペールによる瓶詰の発明
この公募で採用されたのが、1804年にフランスの料理・菓子職人であったニコラ・アペールが考案した「瓶詰」でした。アペールの方法は、ガラスびんの中に調理した食物を入れ、コルク栓を緩くはめて煮沸し、びんの空気を抜いた後にコルク栓で密封するというものでした。
1806年には船での長距離輸送実験が行われ、瓶詰の保存能力は船長や海上提督から高く評価されました。そして1810年、アペールは約束どおり1万2000フランの賞金を獲得しました。「食物を容器に密封し、加熱によって殺菌する」というアペールの瓶詰技術は缶詰製造の基本理論でもあり、このことからアペールは「缶詰の発明者」としても名を残しています。
ブリキ缶の発明と缶詰の普及
現在見られるようなブリキ缶は1810年、イギリスでピーター・デュランドによって発明されました。デュランドはアペールの瓶詰技術を改良し、容器を気密性と携帯性に優れるブリキ缶に変更しました。間もなくブライアン・ドンキンによって、同じくイギリスで世界初の缶詰工場が誕生しました。
瓶詰から缶詰への移行には大きな利点がありました。ガラス瓶は割れやすく重いという欠点がありましたが、ブリキ缶はより頑丈で軽量であり、軍事遠征や長距離輸送に適していたのです。
缶切りの発明と「暗黒の50年間」
缶詰が発明されてから缶切りが登場するまでに約50年もの時間がかかったという事実は、多くの人を驚かせます。缶詰業界ではこの時代を「暗黒の45年間」と呼ぶこともあります。
缶切りがなかった時代の缶詰の開け方
当時の缶詰はブリキ板が厚く頑丈だったため、「のみとハンマーで開けてください」という指示が缶に書かれていたという記録が残っています。その時代の缶詰の開け方は実にワイルドで、ノミとハンマーを使ったり、ナイフで切開したり、銃剣でこじ開けたり、時には銃でぶち抜いたりと様々でした。
缶切りの発明者たち
缶切りの発明には複数の人物が関わっています。一般には1858年1月5日にアメリカのエズラ・J・ワーナーが缶切りの特許を取得したことが、世界初の缶切りの発明とされています。
しかし、イギリスの研究者サミュエル・J・ハードマンの研究によれば、イギリスで刃物や外科用器具の製造を行っていたロバート・イェーツが1855年に、またイェーツの息子フレデリックが1851年にそれぞれ缶切りの特許を取得していたとされています。さらに、イギリスのジョン・ギロンが1840年に考案したとされる缶切りが1843年のカタログに掲載されていたという記録もあります。
ワーナーが発明した缶切りは使い勝手に難があり、一般家庭には普及せず、主に食料品店や軍隊によって用いられました。
回転式缶切りの登場と普及
現代でも広く使われている回転式の缶切りは、ウィリアム・ライマンが1870年に初めて考案しました。そして現代の回転式(ねじ式)缶切りに類似したものは、1920年代にチャールズ・アーサー・バンカーが考案しました。
缶切りの発明に50年かかった理由
缶詰が発明されてから缶切りが開発されるまでに約50年かかった理由については、いくつかの説があります。まず、当時の人々にとって、ハンマーやナイフで缶を開けることはそれほど不便ではなかったという説があります。缶切りというものが存在しなかった時代には、それが「ないと困る」という発想自体がなかったのかもしれません。
また、技術的な要因も大きいとされています。初期の缶詰に使われていたブリキ板は非常に厚く、薄い刃物で切ることが困難でした。1860年代に薄いブリキ板の製造技術が発達したことで、初めて缶切りで開けられるような缶が作れるようになったという背景があります。
缶切りの種類と正しい使い方
缶切りには主に3つのタイプがあり、それぞれ特徴と使い方が異なります。
てこ式缶切りの特徴と使い方
てこ式の缶切りは、日本で最もポピュラーなタイプで、昔ながらの缶切りといわれる形です。缶切りの刃先をフタに差し込み、前後に動かす「てこの原理」を利用した仕組みを採用しています。
使い方にはややコツが必要ですが、価格が安く手軽に購入しやすいのが魅力です。100円ショップやホームセンターなどで簡単に入手できます。てこ式には多機能タイプのものも多く、栓抜き、コルク抜き(ワインオープナー)、ハサミなど様々な機能と一体になったものがあります。
てこ式缶切りの使い方のコツは、まず刃が缶のフチの内側になるようにくぼみに引っ掛けることです。次にグッと前に向かって押し込んで穴を開けます。そして手前の方に切っていき、切り始めの少し手前までカットしたら缶のフタを開けます。引っかかりが外れないように早く動かし過ぎないことが重要です。ただし、てこ式は切り口がギザギザになってしまうため、怪我をしないよう注意が必要です。
回転式缶切りの特徴と使い方
アメリカやイギリスなど海外で多く使われているタイプが回転式です。刃を固定するレバー部分と、刃を回転させるハンドル部分があり、その形や様子から「ねじ式」「歯車式」「ロータリー」と呼ばれることもあります。
回転式の缶切りは、缶のフチを挟み込むように固定し、外側に付いたハンドルを回すことで缶が切れる仕組みです。従来のてこ式に代わって主流になりつつあり、小さい力で開けることができ、コツも必要ないので、てこ式でうまく開けられないという方にもおすすめです。
回転式の大きな利点は、切り口がギザギザにならず断面がきれいなことです。缶を洗うときも怪我をしにくくなっています。使い方のコツとしては、刃をセットしたら切る前にレバーの持つ手を入れ替えることが重要です。まずは右手でレバーを握って缶に固定し、その次にレバーを左手に持ち替え、右手でハンドルを回すようにすると、しっかりと固定されて安全に蓋を切ることができます。
電動式缶切りの特徴と注意点
缶にとりつけてボタンを押すだけで、自動で缶を開けてくれるのが電動式です。握力の弱い方でも簡単に使えるので、一人暮らしの高齢な方や、子どものお手伝い用としておすすめです。ただし、電池や電源が必要なので、災害時などには使えない場合もある点に注意が必要です。
缶切りがない緊急時の代用方法
缶切りがない緊急時には、コンクリートやアスファルトを利用する方法があります。缶を立てて置き、押しつけるようにしながら円を描くようにクルクル回すと缶が開きます。これは警視庁でも紹介されている方法です。
プルトップ缶の革命と缶切り不要の時代
缶切りを使わずに開けられる缶蓋の開発は、缶詰の歴史における大きな転換点となりました。
イージーオープンエンドの誕生
イージーオープンエンド(Easy Open End、略してEOE)とは、缶切り等の道具を用いずに開缶できるようにした缶蓋のことです。1963年(昭和38年)、アメリカのアルコア社で「缶切り不要」のアルミ製イージーオープンエンドが開発されました。これは缶ふたの製造技術における最大の転機でした。
プルトップの仕組みと日本での普及
プルトップ(pull-top)は、缶切り等を用いず、缶容器の上面に付けられた引き金(タブ)を手で引っ張って開ける方式です。日本では1965年(昭和40年)4月から、ビール缶がアルミのプルトップを付けて登場しました。1963年にアメリカでプルトップ缶が発明されると、日本のビール各社はこぞってその導入に踏み切りました。手で簡単に開けられるという手軽さは、缶ビールの人気を高めることにつながりました。
初期のプルトップ缶は、飲み口とツマミが垂直になっており、ツマミ部分も持ちづらいつくりでした。しかし2年後の1967年(昭和42年)には、飲み口とツマミが一直線になり、ツマミがリング状になったリングプル缶が登場しました。1969年から1970年にかけては、ジュースやネクターにも採用されるようになりました。
ステイオンタブの開発と環境配慮
プルトップ式のふたには問題がありました。ふたが缶から取れてゴミになってしまうのです。取り外されたプルタブが環境問題や怪我の原因となることが指摘されました。そこで生まれたのが「ステイオンタブ」です。これはプルタブが缶にくっついたままの構造で、現在の多くの飲料缶に採用されています。環境に配慮しつつ、開けやすさを両立した設計となっています。
イージーオープンエンドの2つの種類
イージーオープンエンドの缶蓋には2種類あります。蓋の一部のみが開口するパーシャルオープンエンド(POE)と、蓋の全部が開口するフルオープンエンド(FOE)です。飲料缶にはパーシャルオープンエンドが、缶詰食品にはフルオープンエンドが多く使われています。
日本における缶詰の歴史
缶詰は明治時代に日本に伝わり、独自の発展を遂げてきました。
日本初の缶詰製造
日本での缶詰の始まりは、明治維新後の1871年(明治4年)です。長崎県の外国語学校で、同僚のフランス人教師が持ち込んだ西洋の加工食品に強い興味を持った松田雅典が、フランス人からイワシ油漬缶詰の製造法を伝授され、試作したのが最初とされています。
北海道と缶詰産業の発展
1877年(明治10年)10月10日、北海道石狩市に日本初の缶詰工場が設立され、サケの缶詰の製造が開始されました。明治政府は産業振興のため西洋文化を積極的に導入しており、缶詰の製造もその一環でした。内務省は東京に勧業寮新宿試験場を設置し、1874年(明治7年)から缶詰の研究に着手しました。
高級品だった明治時代の缶詰
明治時代には、缶詰は主に日本国外向けの輸出用、国内向けには軍需用として生産されていたため、庶民には普及しませんでした。当時の缶詰の価格は1缶が20銭から35銭で、白米1升が7.65銭であったことから、いかに高価な食品であったかがわかります。
日清・日露戦争と缶詰産業の発展
明治10年代に歩み出した日本の缶詰製造は、明治27〜28年の日清戦争、さらにその10年後の日露戦争を契機に「兵隊食」の缶詰として大きな需要となり、拡がり発展しました。戦争という需要が、日本の缶詰産業を急速に成長させた皮肉な歴史があります。
関東大震災と缶詰の一般普及
国内で缶詰が本格的に普及するきっかけとなったのは、1923年(大正12年)の関東大震災です。アメリカから送られた支援物資に缶詰が用いられたことで、一般市民が缶詰の利便性を知ることになりました。災害時の保存食としての缶詰の価値が広く認識されるようになりました。
缶詰が長期保存できる仕組み
缶詰が長期保存に向いている理由は、製造時に行われる「加熱殺菌+密閉」にあります。中身を缶に詰めたあと、高温で加熱殺菌し、完全に密閉することで、微生物の繁殖を防ぎます。これによって、冷蔵保存を必要とせず、常温で長期間保存が可能になります。
缶詰の製造工程
缶詰の製造工程は以下のように進みます。まず、缶詰に詰める原材料をきれいに洗浄し処理します。次に、処理されたものを缶に詰めていきます。その後、バキュームポンプで空気を取り除きます。これは缶の変形を防ぎ、缶内部が腐食することを防ぐためです。そして缶を密封して真空状態にし、最後に缶ごと加熱殺菌して、缶の内部を無菌状態にします。
レトルト殺菌の仕組み
缶詰は密封後、高温で加熱されます。この加熱工程は「レトルト殺菌」または「加圧加熱殺菌」と呼ばれ、120℃前後の高温で一定時間加熱されます。これにより、缶の中の食品に含まれる細菌や微生物が死滅し、食品が長期間腐敗しないようになります。
防腐剤不使用という特長
缶詰は、缶に何かを入れて密封しておしまいではなく、そこから加熱殺菌によって中を無菌状態にします。無菌状態なので物を腐敗させる菌や微生物がいません。よく誤解を受けますが、決して防腐剤を使っているわけではありません。これは缶詰の大きな特長です。
缶詰の賞味期限と保存方法
水産や畜肉缶詰の場合は製造から3年、果実や野菜缶詰は製造から2〜3年が賞味期限の目安です。災害時の備蓄用として5年間おいしさが保証されているものもあります。
保存上の注意点としては、缶が腐食しないように保存することが重要です。高温の場所やずっと光が当たるような場所、湿気の多い場所は避け、可能ならば冷暗所で保存するのが良いです。
驚くべき記録として、1938年にイギリスで「114年間保存されていた缶詰を開けて食べた」という記録が残っています。北極観測隊用の肉や野菜の缶詰だったそうですが、試食した結果、味や匂いは悪くなく、十分に食べることができたということです。
現代の缶詰文化と私たちの生活
現代の日本では、様々な種類の缶詰が販売されており、私たちの食生活を豊かにしています。
人気の缶詰とその栄養価
特に人気があるのは魚介類の缶詰です。ツナ缶には主に「ビンナガマグロ」を使ったものと、「ライトツナ」と呼ばれるキハダマグロ、メバチマグロ、カツオを使ったものがあります。加工方法は大きく分けて油漬けと水煮の2種類があり、油漬けは主に大豆油や綿実油が使用され、コクのある味わいが特徴です。ツナ缶の原料であるマグロやカツオに含まれる主な栄養素はたんぱく質で、必須脂肪酸のDHAやEPAも豊富に含まれています。
サバ缶は近年特に人気を集めています。日本缶詰びん詰レトルト食品協会のデータによると、魚介缶の生産量は2016年にツナを抜いてサバが1位に躍り出ました。2017年頃からの第3次サバ缶ブームは社会現象といえるほど大きなもので、青魚に含まれる不飽和脂肪酸への期待に加え、生の魚よりも安価で日持ちがし、調理が手軽という利便性も背景にあります。
栄養面で見ると、サバ缶はツナ缶と比較して「オメガ3脂肪酸」を断然多く含んでおり、カルシウムはサバ缶260mg/100gに対してツナ缶は5mg/100g、ビタミンDもサバ缶がツナ缶の約3倍と、栄養面で優れています。
| 栄養素 | サバ缶(100gあたり) | ツナ缶(100gあたり) |
|---|---|---|
| カルシウム | 260mg | 5mg |
| ビタミンD | ツナ缶の約3倍 | 基準値 |
| オメガ3脂肪酸 | 豊富 | 少ない |
高級缶詰ブームの到来
かつて100円ほどの低価格と非常食のイメージが強かった缶詰市場に、新しい風を吹き込んだのが高級缶詰です。一缶500円から15,000円という高価格と「酒の肴」に特化した商品構成で勝負し、「高級おつまみ缶詰」という新ジャンルを開拓したのが「K&K缶つま」シリーズです。
「缶つま」誕生は2010年ですが、それに先立って国分は2007年に一個500円から1000円ほどの缶詰を「プレミアム缶詰」として商品化していました。当時の缶詰といえば100円から200円程度の果物やツナといった定番品がほとんどで、安売り競争が当たり前だったため、素材や製法にこだわった高級缶詰は相当にチャレンジングな試みでした。
その後、「家飲み」が流行り始め、高級路線の缶詰を肴に、気持ちの良い家飲みの時間を提案することで、体験訴求型の商品としてプレミアム缶詰がブラッシュアップされていきました。
缶詰バーという新業態
「缶詰とお酒を楽しめるお店」をテーマに全国に店舗展開している缶詰バーも登場しました。代表的な店舗「mr.kanso(ミスターカンソ)」では、オリジナルの缶詰、日本の缶詰、世界の缶詰を取り揃え、その数は約350〜400種類にのぼります。
缶詰バーでは、四川風麻婆豆腐缶詰、たこやき缶詰、イベリコ豚ランチョンミート、フランス産フォアグラ缶詰やカナダ産ロブスター缶詰など、他ではちょっと見かけない珍しい缶詰が揃っています。
缶詰バーという業態には、設備投資費が少ない、調理の手間がかからない、廃棄コストが少ない、まだ珍しく集客力に優れるという4つのビジネスメリットがあります。缶詰は一度調理され味も整えられているので、提供の際には温めなどの簡単な調理しか必要としません。
缶詰と防災・非常食としての役割
災害時にいつ食べることになるかわからないため、長期保存できる缶詰は非常に便利です。また、缶詰は温度や湿度に強く、保管場所を選ばずに長期間保存できる点も大きなメリットです。
非常食としての缶詰の優位性
缶詰のもう一つの大きな特徴は、すぐに食べられる点です。開封さえすれば、加熱することなくそのまま食べられるので、調理をする余裕がない時や火を使えない環境でも手軽に食事が取れます。
備蓄量の目安と計算方法
家族の人数に合わせて、必要な量をしっかり備えることが重要です。たとえば3人家族が1日分の非常食を備える場合、3人×3食=9食が必要です。3日分となると、9食×3日間=27食を備えなければなりません。また、1日あたりに必要なカロリーも考慮した場合、成人は1日あたり1500kcal前後を目安に選ぶ必要があります。
阪神淡路大震災の当時の経験者によれば、2日目に買い出しに出たときは、ほとんど何も手に入らず、3日目には食料がなくなったということです。最低1週間分の確保が推奨されています。
ローリングストック法による備蓄
保存できる食べ物を少し多めに購入し、定期的(1〜2度/月)に備蓄食を食べ、その都度食べた分を買い足し、備蓄していく方法が「ローリングストック法」です。この方法は、食べながら備蓄にもなるので、通常の缶詰や乾麺、レトルト食品が非常食として扱えます。
非常食選びのポイント
災害時だからこそ、家族の好みに合っているものを選ぶべきです。被災中は大きなストレスがかかっているため、食事が家族に安らぎを与えるからです。非常食のバリエーションを増やしたいなら、パン、麺類、おかずもそろえておくと良いでしょう。様々な種類を用意しておくと、飽きずに食事を楽しめます。
缶詰の世界市場と日本の産業規模
缶詰は世界中で消費されており、その市場規模は非常に大きいものとなっています。
世界の缶詰市場規模
世界の缶詰食品市場規模は2024年に約1,017億ドル(約15兆円)に達しており、2033年までに1,263億ドルに達すると予測されています。年平均成長率は約2.2%で、安定した成長が続いています。
市場成長の主な要因としては、簡単で便利な食品を好む都市人口の増加と、タンパク質、機能性繊維、ビタミン、およびオメガ3脂肪酸が豊富な健康食品の需要があります。また、プラスチック包装の環境問題に対する意識の高まりと、持続可能な解決策としての金属缶への期待も市場を後押ししています。
日本の缶詰産業の特徴
日本の缶詰産業は幅広く多様で、約150年の歴史を持ちます。現在、市場には約800種類の缶詰食品があり、消費者の多様なニーズに応えています。
2021年には約93,000トンの魚の缶詰が製造され、魚介類は日本の缶詰食品生産の大部分を占めています。製品タイプ別では、缶詰の魚・シーフード部門が市場の約47.8%と最大のシェアを占めています。
缶詰とリサイクル・環境への貢献
缶は非常にリサイクル性に優れた素材であり、環境保護に大きく貢献しています。
スチール缶とアルミ缶の違い
缶詰や飲料缶には、主にスチール缶(鉄缶)とアルミ缶の2種類があります。すべての資源をリサイクルするためには、材料や種類ごとに分別することが大切です。スチール缶かどうかの見分け方として、マークがない場合は側面が磁石にくっつけばスチール缶です。スチール缶は食品用缶詰に多く使われ、アルミ缶は飲料缶に多く使われています。
高いリサイクル率と環境効果
アルミ缶のリサイクル率は世界的に95%以上に達しており、スチール缶のリサイクル率も多くの国で90%以上が再利用されています。日本では分別収集を行っている市区町村は全国の99.6%に及び、ほぼ全国で缶のリサイクルが行われています。
缶のリサイクルは環境保護に大きく貢献しています。アルミ缶のリサイクルは、新たなアルミの生産時に比べてCO2排出量を95%削減することができます。これは非常に大きな環境効果です。また、スチール缶1本をリサイクルすることで約0.2kgのCO2が削減されます。これは自動車が約2km走行する際に排出されるCO2量と同等です。
リサイクル後の用途
アルミ缶は、リサイクル後にアルミ缶として再生されるほか、自動車部品、日用品などへ生まれ変わります。缶から缶へのリサイクル率が高いことが特徴です。
スチール缶は、リサイクル後にスチール缶として再生されるほか、建物の鉄骨、鉄筋、車のボディー、橋、鉄道のレールなどに生まれ変わります。「鉄」はとてもリサイクル性に優れており、使い終わったスチール缶など鉄製品はまたきれいな「鉄」に戻れるので、何度でも何にでも生まれ変わることができます。
缶切りを知らない世代と防災への備え
最近の缶詰は、プルトップ式のものが多くなってきました。しかし、すべての缶詰がプルトップ式ではないので、まだまだ缶切りが必要になることもあります。めったに缶切りを使わないと、いざというとき、どう使っていいか分からず困ることがあります。
若者と缶切りの関係
昔の缶切りのほとんどがてこ式で、使い方を知らない若者も増えています。プルトップ缶が当たり前の時代に育った世代にとって、缶切りは「見たことはあるけど使ったことがない道具」になりつつあります。
災害時に備えた缶切りの重要性
災害時には電動式の缶切りは使えない可能性があります。そのため、シンプルなてこ式や回転式の缶切りの使い方を知っておくことは、防災の観点からも重要です。
缶詰と缶切りの歴史は、人類の保存食に対する探求の歴史でもあります。ナポレオンの軍事的な要求から生まれた缶詰は、約200年の時を経て、私たちの日常生活に欠かせない存在となりました。缶詰が発明されてから缶切りが登場するまでの約50年という「空白の期間」は、技術の発展が必ずしも直線的ではないことを教えてくれます。「必要は発明の母」という言葉がありますが、逆に言えば「必要性を感じなければ発明は生まれない」ということでもあります。
現代では、プルトップ缶の普及により缶切りの出番は減っていますが、災害時の備えとして、缶切りの使い方を知っておくことの重要性は変わりません。また、高級缶詰ブームや缶詰バーの登場など、缶詰文化は新たな形で進化し続けています。私たちの食卓を彩り、非常時には命をつなぐ缶詰。その小さな容器には、約200年にわたる人類の知恵と技術が詰まっています。









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